Challengers 開発の現場から

描写に息づく、ペンタックスの“感性”。

APS-C機をライバルに想定した、小型化への挑戦。APS-C機をライバルに想定した、小型化への挑戦。

堂々とした外観からは想像しにくいが、PENTAX K-1は驚くほどよく手になじむ。それもそのはずで、APS-CセンサーサイズのPENTAX K-3をわずかに上回る程度の大きさしかないのだ。小さなサイズを目指すほど、技術的な困難は大きくなるのがカメラ開発の常識。それでも、あえて「常識はずれ」のサイズを目指そうと決めたのは、当の技術者達だった。
「大きさの点で私たちが狙ったのは、世に出まわっているAPS-Cセンサーサイズのデジタル一眼レフカメラ。35ミリフルサイズの機構をどうやってそこに収めるか、早くから検討をはじめていました」
現在のペンタックスデジタル一眼レフは、ボディ内手ぶれ補正機構SRを特長としている。PENTAX K-1の開発にあたっては、従来と同等の大きさのSRユニットで、2倍以上の面積を持つフルサイズのイメージセンサーを駆動させることが課題となった。
駆動力を高めるためには、コイルやマグネットの大型化が避けられない。どうすれば大きさと重さを最小限にとどめられるか。技術者が出した答えは、これまで使用していたマグネットとコイルを細長いタイプに変更し、容積をかせぐことだった。さらに、新たな試みとして磁界シミュレーションも設計に取り入れた。プレートやマグネット、コイルの形状を最適化することで磁界がユニットの外に逃げるのを減らし、ムダなく駆動力を得ようと考えたのだ。
ようやく新SRユニットの形が見えてきたのは、開発に着手してから1年近くたってから。技術者の苦労は、むしろここからだった。小型化に成功したとはいえ、イメージセンサーや基板、コイルを含むセンタープレートの重さはPENTAX K-3より40%近くも重くなっている。それだけに慣性が大きく、高精度に制御するのは難しかった。ましてリアル・レゾリューション・システムではそれを1ピクセル単位で精密に動かし、正確に止めなければならない。
こうして完成したSRユニットは、横幅がPENTAX K-3のものとほぼ同等。バッテリー室と組み合わせると、PENTAX K-1の幅にぴったり収まる大きさだった。

過酷な条件が、技術の進化を促す。

一方、ミラーの駆動機構を担当した技術者は、検討をはじめて早々に設計の難しさを実感していた。与えられたスペースが、あまりにも狭い。ひとつの回転軸でミラーを動かすシンプルな機構を採用したかったが、搭載は不可能だった。
理由はふたつ。ひとつは、Kマウントのフランジバックに余裕がないことだ。フランジバックとは、撮像面からマウントまでの距離のこと。フランジバックはすべてのKマウントレンズの基準であり、変えられるものではない。ところが、デジタルカメラではイメージセンサーの前にフィルターがあり、SRユニットの厚みもあって、シャッターがマウント側に近づいている。結果として、マウントからシャッターまでの空間が狭くなる。
ふたつ目の理由は、視野率約100%へのこだわりだ。十分な大きさのファインダー光束を得るには、大きなメインミラーが必要になる。しかもPENTAX K-1は、SRでイメージセンサーが上下左右にシフトするぶん、シャッターの開口面積も広い。撮影への影響を避けるためには、メインミラーの駆動量を大きくしなければならない。

「すると、どうしてもメインミラーがマウントに干渉してしまうんです。レンズによっては後玉がマウントの内側に入り込んでいるものもあり、それを想定したマウント規格に適合させるため、開発の初期段階からリンク機構の採用を決めました」
リンク機構とは、ミラー駆動と同時に回転軸を移動させるもの。機構が複雑になるため、今では採用しているカメラは少ない。それを現代にふさわしい、合理的で洗練したものへと進化させることが技術者のテーマになった。

今でも彼のデスクには、検討の際につくった紙工作が残っている。ミラーの動きをイメージするにも、技術者同士で検討するにも都合がいい。結論はこうだ。露光前、メインミラーの回転軸は、シャッターの開口部にかかる位置にある。それを、ミラーアップと同時に斜め後方に持ち上げてやる。その動きを制御するのはモーターとカム、レバーのメカ機構。
この機構が優れているのは、レバーで回転軸を保持するためミラーの位置精度が高いこと、そして、バネを使わないため姿勢差の影響を受けないこと。何より「リンク機構の特性とモーター制御、伝達機構の最適化で、ミラーダウン時のバウンドがほとんど生じないこと」(ミラー機構設計担当者)だ。バウンドの少なさは、ミラーが軽く制御しやすいAPS-CサイズのPENTAX K-3を凌ぐほど。省スペースで大きなミラーを動かし、しかも特別なバウンド抑制機構やダンパーを必要としない「フローティングミラー構造」がここに誕生した。

ファインダーの「見え味」に、妥協はしない。

イメージセンサーがフルサイズになって大型化するのは、メインミラーだけではない。ファインダー光学系、特にペンタプリズムも相当な大きさになる。設計を担当した技術者は、まずファインダー光束がけられない限界のサイズで試作を行い、肩を落とした。
「プリズムの側面で内面反射が起きて、光がファインダーの視野外まで漏れてしまうんです。問題はプリズムの大きさと形状でした」
プリズムの面をどうすれば、大型化を最小限にとどめ、しかも良好なファインダー視野を確保できるか。最適解を求め、形状と大きさの微調整を重ねた。
PENTAX K-1は、プリズムをはじめとするファインダー光学系も新規設計だ。視野が大きいだけに、ディストーション(歪み)も目立ちやすい。視点を動かすたびに視野の周辺に歪みが出るようでは、Kシリーズ一眼レフのフラッグシップは名乗れない。
技術者が着目したのが、プリズム直下のレンズだった。普通、ここにはファインダー視野を明るくするためのコンデンサーレンズが配置される。それを非球面にすることで、接眼光学系を複雑化することなく、狙い通りにディストーションを補正できた。 もちろん、その下にある透過型液晶も、ただ配置しただけでは済ませていない。両面にAR(反射防止)コートを施すことで透過率を高めた。透過型液晶は明るさの点で不利になるはずだが、PENTAX K-1は「PENTAX K-3と同等」の見やすく高品位な見え味を実現している。

PENTAX K-1はサイズこそ小さいが、手にとるとフルサイズならではの重さがある。その重さは、技術者たちが従来の常識を超えたカメラを生み出そうと努力した、熱意の重さである。