Challengers 開発の現場から

開発者たちの熱意の結晶、それがPENTAX K-1。

夢は、技術者の情熱からはじまった。

PENTAX K-1はいかにして誕生したのか。実は、その開発の発端はユニークだ。通常ならば商品企画チームが起点となり、正式にプロジェクトと認められて話がはじまる。 「それがPENTAX K-1は違ったのです。数年前の春のこと。技術者たちが開く会合に誘われました。出席してみると、メカ、電気、ファームウェア、光学それぞれの分野の技術者が、10人以上も顔を揃えている。そのテーマが、35ミリフルサイズ一眼レフだったのです」 商品企画チームのひとりが当時を振り返る。会合の主旨は、フルサイズ機の開発に必要な要素技術の検討。正式なプロジェクトではないし、商品企画やコンセプトも決まっていない中、技術者たちの想いだけで開かれた会合だった。 商品企画から参加した彼も、10年も前に「将来のフルサイズ機発売に向けて対応レンズの商品化を」と訴えたことがある。しかし、当時はAPS-Cサイズの利点を活かし、ペンタックスにしかできない小型・軽量、高性能なカメラの開発に注力すべき時期だった。以来、フルサイズ機は商品企画チームの中でも話題にされたことはなかった。 そのフルサイズ機と、開発の現場が向き合っている。会合は『フルサイズ委員会』と称され、以後、定期的に開催されることになる。

ペンタックスのよき伝統を、信じる。

Kマウントを採用し、光学ファインダーを備えたフルサイズ一眼レフ。実は、これはいちばん難しい選択肢のひとつだといえる。ミラーボックスを持つ一眼レフは小型化が困難だ。特に視野率約100%となると光学的な制約が大きい。
「既存のフルサイズ機は、どうにも大きくて違和感がありました。当然、小型化が求められると思いますが、こちらから何も言わなくても技術者が勝手に小型化の検討をしていました。」
商品企画チームの真骨頂はここからだ。ユーザーの声を代弁し、技術者にぶつける。「前後2つのダイヤルでは足りない。せめて露出補正ダイヤルを付けられないか」。すると技術者たちは、「それだけでは付加価値が足りない。いっそ多機能ダイヤルにしてはどうか」と答える。これがスマートファンクションの原型になった。

また、「チルト液晶モニターを縦にも横にも動かせないか」と無茶振りをし、「こんな機構はどうだ」と図面が出てきたときは、さすがに商品企画チームも驚いた。「暗くても操作やレンズ交換ができるようライトがほしい」と伝えると、「フレキシブルに動く液晶の背面にライトを設けて点灯させよう」となり、斬新なアイデアに感心させられた。 ペンタックスの技術者は、良くも悪くも職人気質。ニーズがあると納得すれば、ユーザーのために何とかしようと腕をまくる。その伝統を信じるから、商品企画チームもどんどん新しいアイデアを相談できる。満を持して挑んだ社内プレゼンテーション。ここにPENTAX K-1は正式な開発プロジェクトとしてスタートを切ることになった。

答えは、いつもユーザーの声にある。

ペンタックスにとって初のフルサイズ機となるだけに、商品企画担当チームには、システムをどうするか迷いがあった。たとえば、ミラーレスという選択肢もある。ミラーボックスを持たず、フランジバックを短くできる利点を活かせば小型・軽量化ができる。ならば、マウントも新規に開発したほうが本質的、かつ合理的ではないだろうか。 商品企画チームの疑問に答えたのは、ユーザーの声だった。ドイツのフォトキナに出張した折、現地の『PENTAXIAN(ペンタキシアン)』(ペンタックス愛好家)に声をかけられた。PENTAXIAN(ペンタキシアン)は「せっかくペンタックスで写真の楽しさに目覚め、ステップアップしていこうと思っているのに、APS-Cサイズの次が645サイズでは敷居が高い」とフルサイズ機の不在を嘆いた。 「やはり、私たちは既存のペンタックスユーザーを大切にしなければならない、ということを再認識させられました。となると、新規マウントはありえませんよね。彼らが持っているKマウントレンズが使え、彼らが評価してくれている光学ファインダーを採用した一眼レフ。ペンタックスのフルサイズ機は、これしかないと確信しました」

こんな人間くさいカメラがあっても、いい。

商品企画チームからは、3人がPENTAX K-1開発に携わった。ひとりはD FAレンズを担当した。PENTAX K-1のリリースに合わせ、超広角から超望遠までのラインアップを揃えること。彼が挑んだのは、PENTAXIAN(ペンタキシアン)が求める「味わい」をどう実現するか。 「写真家やユーザーはモニターやプリントを見ながら、『ペンタックスはここの描写がすばらしい』と仰います。では、それが『どんな被写体条件のとき』『どんな収差が作用して』の結果なのか。写真家の声を光学設計者に理解できる言葉に翻訳し、開発をサポートするのも商品企画の仕事です」 レンズの商品企画担当者は、もともと鏡胴設計畑の出身。技術者としての知見と商品企画としての分析力が、D FAレンズの描写力に宿っている。 もうひとりは、GUIのデザインチームと協力して操作性の精査に取り組んだ。スマートファンクションの仕様は、相当な議論を重ねて彼が取りまとめたものだ。もともとメカの技術者として、数々のメーカーでカメラを手がけてきた批評眼に、ペンタックスはどう映るか。 「良くも悪くも人間くさいですね。現代のインダストリアルプロダクトは、カメラでもクルマでも、とても洗練されています。ところがPENTAX K-1には、単純に割り切れない何かがある。いろいろな人の価値観や想いが凝縮されていて、『よくぞやってくれた!』というところもあれば『これは何ごとだ!』といわれる部分が混在し、ひとつの塊になっている。そこが、とても面白いし、PENTAXIAN(ペンタキシアン)にとっての魅力なのでしょう」 そういうカメラだからこそ、今あえて世に問う価値がある。PENTAX K-1は、そういうカメラだ。